スタティックバランスからダイナミックバランスへ |
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前回はバランスの歴史をお話しましたが、基本的にはその経緯はスタティック(静的)バランスの歴史でもあるので す。そしてスタティックバランスそのものがリアクションを決める要素として考えられ、「ドリル上のバランス」として、歴史的には1970年代後半頃まで使 われていました。勿論今でもルール上のバランス規定としては存在していますので、スタティックバランスをバランス効果として信じている人も、ゼロではない と思われます。ところが70年代後半にアメリカから新たなアクシスバランスやレベレージバランスという考え方が入ってくると、物理的にどうしてもつじつまが合わないこと が起きてきたのです。その疑問を解くために試行錯誤があり、そのプロセスをたどるうちに到達したのが「ダイナミックバランス」でした。
今回はその3つの疑問についてお話しいたしましょう。 |
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(1) ボールの構造で曲がり方が違うのは何故か |
バランサーでの測定値(スタティックバランス)が同じでありながら、ボールの構造が違うと、全くリアクションが違ってくるのは何故か。例えば、当時はやっ た集中ウエイトのボールと半月型のパンケーキと呼ばれるボールを比較すると、集中ウエイトの方が先の曲がりがシャープになる、というような現象です。「バランスが同じでありながら曲がり方が違うのは何故か」というのが最初の疑問です。 |
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図-1 |
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(2) レベレージウエイトとバランス効果の矛盾 |
レベレージウエイトというのはそれまでのスタティックバランスをとりあえず無視して、ウエイトブロックをアクシスポイント(回転軸)に対して45度に位置 させるレイアウト(図−2)で、当然バランス規定を外れる事になり、バランス調整穴を1個ドリルすることで、規定内に治めるというドリル方法です。
この方法により、回転軸のぐらつきが大きくなることでトラックフレアが広がるため、従来のバランス効果では起こりえないような大きさの、バックエンドリア クションを得ることができたのです。ところが従来のスタティックバランスで考えると図−2のようにバランス調整穴を開けたことにより、ネガティブウエイト になるという事が起きることもあるのです。本来曲がりが小さくなると言われていたネガティブ(マイナスのバランス)にもかかわらず、「ボールはより大きく 曲がる」という矛盾が2番目の疑問でした。 |
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図-2 |
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(3) スリーバランス理論という考え方 |
そして3つ目はスリーバランスという考え方です。あたかもボールに3つのウエイトが
作用しているかのごとく考えてしまう錯覚を起こさせたことです。ルール上の規定で、前後、左右、天地という3方向のバランスの差を測定する中で、「サイド ウエイト」をポジティブ側に多くかけると曲がりが大きくなる。とか「フィンガーウエイト」をかけるとボールの曲がりが先になり、サムウエイトをかけると手 前から曲がり出す。さらに「トップウエイト」は多い方が曲がりは大きい。というそれぞれの効果が誇張され、3つのバランスがそれぞれ独立しているかのごと く扱われ、それらを称して「3リーバランス理論」という位置づけがなされたことです。それらは単なるボールの重心のズレをバランサーで測定した数値に過ぎ ず、理論と呼ぶには論理性が乏しいものでした。
1980年代の後半頃だったと思います。物理的な解明までには至りませんでしたがこれらの矛盾を解き明かすべき、提言をしたことを思い出します。
3バランスと言っても3つのものが独立して存在するわけではなく、もともと1つのバランスを3方向に測ったに過ぎないこと。ボールが手から離れて回転を 始めるとグリップライン(3指孔の中心線)はその意味をもたず、図のようにウエイトブロックはどこの位置にあっても同じ意味であるという考え方を公にいた しました。
そして回転する物体には独自の運動法則があり、「ジャイロ効果」の影響を受けているからこそ、ウエイトブロックの位置によって軸移動の方向が異なるということを実験により検証し、今までの矛盾の一部を解き明かすことが出来ました。 |
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図-3 |
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しかし、この理論をもってしてもウエイトブロックの形状による曲がりの違いやレベレージウエイトの説明には至りませんでした。
そこで、当時の東大ボウリング部主将の岸本孝博氏との共同研究の中で注目したのが、ボールが回転することによって生じる遠心力でした。この遠心力は半回 転するごとに逆の作用となり、回転軸をグラつかせる「フレア」の原動力となり、曲がりを大きくさせると考えたのです。
このつづきは次回ダイナミックバランス理論で解説したいと思います。ご期待下さい。 |
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